政策の実効性

中国は「上に政策あれば下に対策あり」を地でいく市場だ。

中国のビジネス環境が政府の政策に大きく左右されることは間違いないが、政策が公布施行されたからと言って、そのルールで市場が動くかどうかは分からない。政策が発表されることと、その実効性は分けて考えなければならない。守らなければならない政策やルールも、その実効性が伴わなければ、「もぐり」が跋扈し、「もぐり前提」での市場競争を強いられる。

明らかに「違法」なものは長続きしないが、「脱法」なものはその「脱法度合い」により存在が「許される」可能性がある。「なんで適法でないものが存在するのか!?」と目くじらを立ててもどうしようもない場合もある。

新規事業のKPI管理

やることが決まっていない新規事業のKPI管理は難しい。

5年後、10年後の事業を作るために新規事業開発の部署を立ち上げ、新たなビジネスの種を探そうとする企業は多い。漫然と探しても見つからないし、早期の売上実現や利益貢献を目指すと現状プラスα程度のビジネスアイデアしか出てこない。

新規事業発掘に似ている投資という仕事であれば、
①とにかくたくさん投資案件を見て検討して
②その中から良さそうなものをDDして
③投資条件交渉をして
④投資実行する
というステップごとに案件数をカウントすることで、定量的にも定性的にも事業進捗が見えやすい。

一方、やることが決まっていない新規事業をこのステップ論でやると、時として自己満足に終わる可能性がある。
やみくもにビジネスアイデアを考え、現事業とのシナジーの有り無しを考え、事業として「目」があるかどうかを判断する。実際やるとなった後も、すぐには「自立歩行」できない事業であるから様々なサポートが必要になる。

「ステージ/ステップを区切って検討していく」というのは概念的には理解できるが、実際にそれを進めていくのは難しい。

戸口とか社会保険とか

事業推進にあたって人材は重要な「資産」の一つである。中国ビジネスでもそれは変わりない。ただ、中国での人材採用は事業戦略にマッチするかどうかという観点のほかにも留意しなければならないことがある。

地域性である。

中国は、省が異なると、戸籍(戸口)や社会保険の制度も異なる。北京で働いていた人が上海に移って働いても単純には引き継げない。特に、地方から大都市に出てきて大都市の戸口を取ろうとしている人にとっては「どこで働くか」というのは文字通り死活問題になりうる。場所の意味でも、どこに本社のある会社かという意味でも。本社が上海にあるからと言って北京で働いていた人が簡単には転勤できるとは限らない。
また、設立間もないベンチャー企業など中小企業では「従業員が期待する」社会保険料額を納めていないこともある。

良い人材であり、当人も働く気があっても、採用に至らないことがある。

サービス輸出の方法

モノの輸出でも基本的には同じであるが、日本のサービスを中国に輸出する場合、次のような手順で進んでいく。
中国語化⇒ローカル化⇒テスト導入⇒販売⇒組織拡大

中国語化 : 今まで日本で使っていたものを中国語に翻訳するということ。専門用語や最新のネット用語などはうまく中国語に訳さないと、意味が通じにくくなる。

ローカル化 : とりあえず中国語化したものをベースに、ターゲットとなりそうな顧客の使い勝手を調査する。純粋なネットサービスならばPC一台(携帯1台)で出来るかもしれないし、何かの機器にインストールして使うようなものであれば顧客先に「設置」して使い勝手を聞く必要があるかもしれない。使い勝手を聞いて、プロダクトの過不足を把握し、中国市場にマッチしたサービスに改善していく。

テスト導入 : ある程度プロダクトが出来上がったら、実際に顧客に使ってもらって更に詳細なチューニングを行っていく。プロダクトの改善だけではなく、その導入にあたっての関連するサービスやプロセスの整備・改善なども含まれる。

販売 : テスト導入で安定的なサービス提供が確認されれば実際に販売して、契約書(申込書)や資金回収のプロセスをチェックする。

組織拡大 : 売れる目途が立てば、手作業や個別対応部分を減らし、組織として対応できるよう各プロセスをマニュアル化していく。その過程で人員も一気に拡大していく。

重要なことは、各ステップをとにかく高速で試行錯誤を繰り返し、ステップを進んでいくとともに必要であればステップを戻ることも検討する。
そして、テスト段階で極力多くの種類の顧客にあたることがサービスを完全なものに近づけていく事にも留意が必要である。ステップの進行を気にしすぎて特定のケースのみに特化したサービスを作ってしまうと、いざ販売拡大のフェーズで「意外に市場が小さかった」ということにもなりかねない。どの顧客セグメントが大きそうか、ということに目途をつけるという意味でも、テスト段階で多くの種類の顧客に当たり、「このタイプの顧客の数はどれくらいか?」ということを常に考えることが重要。

インセンティブ設計

新規事業開発、もしくは日本企業にとっての中国事業部門の担当者のインセンティブは注意深く設計しなければならない。

「その事業は将来性あるの?」「今更中国ビジネスって成功する?」という質問をそういう担当者に直接聞くのは愚問である。その担当者は、その事業を推進することを第一のミッションとして負っているので、「将来性はありません」と積極的に言うインセンティブが無いからだ。悪意を持って全く可能性を信じていないのに「将来性がある」とは言わないと思うが、自分の担当する領域で得た知見をベースになんとか事業として成立する方法を考え、「xxというやり方なら行ける!」と言うはずである。

実際の案件推進段階においても同じで、案件推進担当者は目の前の課題に取り組むことに集中しがちなのでバランスよく判断することが難しくなる。そういった時は、「数」を追うのか、「質」を追うのか、マネジメントとして二者択一である程度言い切る勇気も必要。

ファンドの立ち上げ~運営

投資ファンドの立ち上げから運営における重要な以下の各項目について必要な考慮点を簡単にまとめたいと思う。
①ファンドコンセプトの策定
②ファンド事業計画の策定
③投資対象の発掘・投資案件検討
④ファンド投資家との折衝・協働
⑤その他ファンド管理業務

①ファンドコンセプトの策定
ファンドコンセプトが一番重要となるのは、外部投資家から出資を受け入れる場合など対外的な説明時だろう。ファンド運営者からすると、儲けられると思える案件についてはどんな案件にでも投資したいし、出資を受ける側にしても、出資を受けられるのであればどういうコンセプトのファンドであってもお金はお金である。投資家としても、資産運用目的での出資あれば設けられればなんでも良い、となりがちではあるが、それでも自身のお金を預けるのにどういう使われ方・どういう領域に投資されるのかについてはある程度縛りたい。また、事業開発や市場調査目的で投資するようなファンドであれば、自身の興味領域に合った案件に投資してくれるファンドにしか投資しない。

②ファンド事業計画の策定
ファンドの事業計画、特に財務面は、事業会社のそれとは大きく異なる。投資時に資金が大きく流出し、投資先が大きくなるのを待つ間にはさほど資金流出はしない。そののち、Exit時にはキャピタルゲインなどと同時に投資金額が戻ってくるので資金流入が多くなる。こうした流れと合わせるように、通常のファンドであると、10年のファンド運用機関のうち、最初2~3年を出資期間に定め、投資活動を積極的に行い投資残高を積んでいく。途中4~8年目くらいは既存出資先の追加投資による資金流出や早期Exit案件に伴う資金流入があろう。そして最後の9~10年目には積極的にExitを試み、ファンドへの資金流入が生じる。実際には2年程度のファンド延長期間が設定されているので、全て投資回収するまでには10年以上かかることが多い。こうしたファンド運営の中で、新規投資案件の進み具合でいつ投資家から出資を受けるか(キャピタルコールするか)、Exit案件の進捗具合でいつ投資家に利益を分配するかを検討しなければならない。

③投資対象の発掘・投資案件検討
投資案件の発掘やその検討がファンドの最もキモであり、その良し悪しでファンドの運用成績が決まる。あらゆるところにネットワークを張って、良い案件が来るのをキャッチしなければならない。良い案件が来た時にも、すぐに協業他社にも知れ渡ってしまうので、慎重かつ積極的に案件を推進していかなくてはならない。設立間もないベンチャー企業では検討する為の情報が少ないこともある。そうしたときに迅速に判断して投資実行することが、同業他社を出し抜くために必要な事である。そのためにも、投資のための基本的な金融知識や契約知識を備えた案件担当者が重要になる。

④ファンド投資家との折衝・協働
ファンドコンセプトでも述べたように、様々なファンド投資家がいて、様々な目的で投資をしている。4半期ごとの説明や、年1回のファンドの運用成績の説明が重要であることはもちろんであるが、投資家の意向により市場環境の説明や、投資先とのミーティング・事業開発アレンジなどをしなければならない。

⑤その他ファンド管理業務
上記以外にもファンドを管理するための業務は多岐にわたり、ファンド運営管理会社はまさに会社であるため、会社としての労務、人事、経理、法務業務などがある。

ベンチャー投資で必要なこと

ベンチャー投資するうえで必要なことと言えば、金融と契約(法務)の知識、そして良い案件を見つけてこられるネットワーク。

DCFやMultipleといった一般的に理論的と言われるValuation方法が使いにくいのでベンチャーファイナンスは少し特殊な金融知識になる。契約書についても優先株などでの出資が一般的なので特殊な用語が多い。ただ、こうしたこと関連書籍を何冊か読み、2~3件投資してみれば基本型が分かるので知識獲得自体は難しくない。
やはり一番難しく、経験や勘が必要なのは良いネットワークを築くこと。ベンチャー企業の情報は未上場であるがゆえにただでさえ表に出にくいうえに、良い案件は誰しも囲い込んで極力外には出したがらない。何とか良い案件に投資して、実績として語れる案件をいくつ作れるか。良い案件に投資したことが評判になると、良い循環が生まれて新たな良い案件情報も入ってきやすくなる。こうしたことには「公式」は無いので、地道な活動も含めて粘り強く、でも効率的に行うことが必要。

コピー天国でイノベーションが出てくる

知的財産を権利として守らない社会は困るが、良いもの、成功しているものを何でもコピーする市場は時には強さを発揮する。

中国のベンチャー企業は、自分自身のビジネスモデルや製品・プロダクトが真似される可能性のあることを前提に事業推進を行うから、そのスピード感はすさまじい。唯一ともいえる差別化がスピードになるからだ。他社よりも早く動いて一定規模の市場シェアを握る、それが参入障壁になるという考え方だ。ただ、一定規模の市場シェアと言っても、市場が巨大であるためにマーケットリーダーとなるほどのシェアを握ることも非常に困難である。Grouponモデルと言われる共同購入というビジネスモデルが流行った時、中国には一時1,000を超える類似サイトができた。その後、同業同士での買収や自然淘汰により美団Meituanというサイトが生き残った。

そういった市場の中で消費者は巧みに使いやすいサービスに簡単に移っていくために、今や単純なマネだけでは生き残れないのは誰しも知っているので、企業側も次から次へと便利なサービスを打ち出す。便利さだけで言えば、日本やアメリカよりも便利なサービスはたくさんある。WeChatはその最たるもの。

コピー前提だからイノベーションが生まれ、巨大なベンチャー企業が誕生し、結果的に社会として強くなっていく。

情報収集の重要性

中国では市場の変化が目覚ましく、そのルールの変化も目覚ましい。全ての項目について常に最新化するのは難しいが、情報のネットワークを張っておくことは大切。

法的整備が遅れていても、必要なもの、ニーズが多いものに対しては「対策」がいくつも出てくる。そしてそれがあたかも一般的なルールのように普遍的に使われる。VIEスキームもしくはWFOEストラクチャーと呼ばれる投資スキームもその一つである。一方、法的にOKであっても、実務上実行ができないものもある。規制業種への外資の直接投資である。法的には50%未満の投資であれば外資も参入可能であるのに、登記しようとすると受理されない。

また、新しいルールについても要注意である。ルールができたからと言って直ちにその規定通りのことが実現されるわけではなく、中国各地で事例が出てきてようやく安心して使えるルールになる。特に特区などでの新しい規定は、ルール自体が都市によっても異なるし、実務事例の蓄積もさまざまである。

北京の強さ、上海の強さ、深センの強さ。

中国は都市ごとにその文化、歴史、経済の基盤が違い、一つの国の都市とは思えないことが多々ある。

ベンチャービジネスについても同じである。北京では、中国のシリコンバレーと言われる中関村に始まり、各地でベンチャー企業の集まりが開催されたり、インキュベーションセンターも各地にある。VCなど数多くの投資家もオフィスを構えており、ベンチャーを興す人、それをサポートする人の厚みが違う。上海も同様で、浦西の古い建築物をリノベーションしたおしゃれなインキュベーションセンターがあったり、各地でベンチャー企業の催しがある。深センは、香港への玄関口ないしは輸出加工工場として発展してきたためか、製造業を背景としたモノづくり系のベンチャー企業が多い。安くて高品質な製造工場と巧みに連携したIoT企業がたくさん出てきているし、何よりもTencentの城下町として起業家の人材プールもある。

もちろん、それ以外にも、伝統的にゲーム産業の強い成都や、Alibaba本社のある杭州など中国各地で競うようにベンチャー企業が生産される。政府もこうした動きを後押しして、補助金を出したり、政府系の建物をインキュベーションオフィスに改装してベンチャー企業に安く入居させたり、自由貿易区を作って規制緩和特区を作ったりしている。

今やどの都市に行っても中国ベンチャーの熱気であふれている。