ベンチャーの資金調達 ~成長ステージとValuation~

ベンチャー企業が資金調達をする場合(上場企業でも基本的には同じだが)、株価は高ければ高いほうが良い、とは限らない。

ベンチャー企業にとっての、資金調達の対価は株式であり、事業運営及びその成長のための資金調達をする代わりに会社の一部を売るともいえる。従って、創業メンバーの持株比率を高く維持するためには、より高い株価(Valuation)で資金調達をすることが良いことのように思える。
事業運営をする創業メンバーと、VCなどの外部投資家との利害関係を一致させるためにも、創業メンバーの持株比率をある程度高く維持しておくことが良いとも言える。創業メンバーの持株比率があまりに低くなりすぎると、将来的に「株価を上げよう」というインセンティブが薄れてしまうからである。

しかし、一般的にうまくいっているベンチャー企業は資金調達のたびに(Series A、B、C…と進むにつれ)Valuationが上がっていくことが期待されるので、あまりに高い株価は次の資金調達Roundへのプレッシャーにもなる。上場企業と違って株価が頻繁には表に出てこないベンチャー企業にとって、直前のRoundよりも株価が低くなってしまうことはDown Roundと呼ばれ、あまり名誉なこととは言えないからである。

ベンチャー企業の資金調達については、創業メンバーの持株比率と次のRoundでの株価を意識しつつ、今の株価と資金調達額を決めていかなければならない。いわゆる「資本政策」と呼ばれる戦略立案のプロセスである。

自己紹介・問い合わせ

持分比率の増減と時価総額の増減

・増資に参加しなければ株式の持分比率は下がる。
・既存株の譲渡では当該会社の資金調達にはならない。
・アップラウンドであれば持分の価値総額は上がる。

ベンチャー企業に投資する際には、特にこの3つの事実とそれぞれの関係性を理解しておかなければならない。
ベンチャー企業は事業が未成熟であるために、増資を常に考えなければならない。本業で(売上など)資金流入が少ないために基本的に資金不足になりがちである。一方、事業拡大などやりたいことはたくさんあるために事業資金は必要となる。

ベンチャー企業が投資家から資金調達をするのは、通常、新株の発行を伴うことが多いので既存株主がその資金調達ラウンドに参加しなければ既存株主の持分比率は下がる。
ここで、既存株主が持分比率を維持するために、(創業者など)他の既存株主から株式を譲渡してもらうことが考えられる。ただし、ここで支払われるお金はベンチャー企業自体には入らないので、将来的な事業成長のためには使えない。譲渡元の株主に現金が入るだけである。
一方、持分比率が下がったとしても、新規の資金調達がアップラウンドであれば=株価(時価総額)が上がっていれば、持株の価値の総額は上がっており、投資としては順調に推移していると言える。

ベンチャー投資で必要なこと

ベンチャー投資するうえで必要なことと言えば、金融と契約(法務)の知識、そして良い案件を見つけてこられるネットワーク。

DCFやMultipleといった一般的に理論的と言われるValuation方法が使いにくいのでベンチャーファイナンスは少し特殊な金融知識になる。契約書についても優先株などでの出資が一般的なので特殊な用語が多い。ただ、こうしたこと関連書籍を何冊か読み、2~3件投資してみれば基本型が分かるので知識獲得自体は難しくない。
やはり一番難しく、経験や勘が必要なのは良いネットワークを築くこと。ベンチャー企業の情報は未上場であるがゆえにただでさえ表に出にくいうえに、良い案件は誰しも囲い込んで極力外には出したがらない。何とか良い案件に投資して、実績として語れる案件をいくつ作れるか。良い案件に投資したことが評判になると、良い循環が生まれて新たな良い案件情報も入ってきやすくなる。こうしたことには「公式」は無いので、地道な活動も含めて粘り強く、でも効率的に行うことが必要。

PreMoneyとPostMoney

中国に限らない、ベンチャー企業のValuationの計算式は次の通り。

Pre Money Valuation +調達額 =Post Money Valuation

1億円出資して10%の株主になろうとすると、Pre Money Valuaitonは9億円、Post Money Valuationは10億円ということになる。

この水準(9億円)が妥当かどうかというのは、そのベンチャー企業の状態や他社の事例を参考にするしかない。直近で似たようなベンチャー企業がどれくらいの段階でどれくらいのValuationで調達したか。しかも、未上場なのでその情報も噂や不確かな情報であることが多い。ベンチャー企業は利益を上げていない、キャッシュフローはマイナスであることが多いので、DCF的な考え方ではValuationを正当化しにくい。

最近の中国だと、Seed Stageで数千万円(数百万元)、Series A~Bで数億円(数千万元)調達するベンチャー企業が本当にたくさんある。Series C以降になると数十億円も。もちろん、それぞれの段階で次に行けるベンチャーもあれば、行けないベンチャーもある。

ホームラン狙いの投資

いろんな業界にあるセンミツという言葉。ベンチャー投資でも同じ。

資金調達したいベンチャー企業は山ほどあり、「投資してるよ」というとどんどん案件がやって来る。そうした中でも「絶対に成功する」と信じられる案件に巡り合えるのは本当に少ないし、巡り合えても投資家同士の枠の取り合いも激しい。成長著しい中国では、起業家として成功しようという人は多く、投資家としてひと山当てようという人はさらに多い。

こうやって何とか投資できたとしても、本当に成功するのは10件に2~3件。成功した案件で失敗案件を賄おうとすると5~6倍のリターンが必要。5年で5倍の投資とはIRR40%。

それくらい大きなリターンが見込める案件のみに投資しなければベンチャー投資ビジネスとしては成り立たない。

初期段階の企業に投資するベンチャー・キャピタルは、大きな問題を見つけ、それを解決するという目標を掲げて、相当のリスクを取ることを誇りにしています。次なるビッグ・チャンスを求めて、つねにアンテナを張り巡らしています。小さな問題を徐々に解決していこうという姿勢とは百八十度違います。【「20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義(電子版)」 ティナ・シーリグ CCCメディアハウス】

Valuationの重要性

個人や気心の知れた少人数でVCを運営しているのであれば合意がとりやすいが、CVCなど大企業のベンチャー投資チームが「まじめに」Valuationをし始めるとそれだけで一大仕事になってしまう。

投資する際のValuationは非常に重要である。

投資時の持分比率を決めることになるし、次のラウンドにも影響するし、持分比率を通じてExit時のリターンにも影響してくる。

が、詳細に検討すること、より正確に計算しようとして時間を費やすことが投資全体にとって良いことかどうかは別問題。

DCFよりマルチプル

ベンチャー企業のValuation(企業価値の評価)は難しい。

一般的には、企業価値算出にあたってはDCF法が理論的と言われるが、変数が多く、変数を少し変えるだけで結果が大きく変わってしまう。5年先はおろか、1年先だって分からないベンチャーに対して「正確に」仮定を置くことはほぼ不可能。

なので、マルチプルでざっくり、が「正しい」方法となる。それですら、将来Exitの際の売上や利益、株式持分を仮定しなければならず、さまざまな計算結果が出てきてしまう。

Exit時の想定のValuationを算出して現時点のValuationに割戻し、今回の出資額との見合いで持ち分比率が適正かどうか。あまりにValuationを高くし過ぎると次の資金調達ラウンドを難しくしかねない。低く評価してしまうと、創業チームの持分が減ってしまい、モチベーション維持に影響が出る。

マルチプル法を使いつつ、様々な観点からValuationの妥当性を検証しなければならない。