北京の強さ、上海の強さ、深センの強さ。

中国は都市ごとにその文化、歴史、経済の基盤が違い、一つの国の都市とは思えないことが多々ある。

ベンチャービジネスについても同じである。北京では、中国のシリコンバレーと言われる中関村に始まり、各地でベンチャー企業の集まりが開催されたり、インキュベーションセンターも各地にある。VCなど数多くの投資家もオフィスを構えており、ベンチャーを興す人、それをサポートする人の厚みが違う。上海も同様で、浦西の古い建築物をリノベーションしたおしゃれなインキュベーションセンターがあったり、各地でベンチャー企業の催しがある。深センは、香港への玄関口ないしは輸出加工工場として発展してきたためか、製造業を背景としたモノづくり系のベンチャー企業が多い。安くて高品質な製造工場と巧みに連携したIoT企業がたくさん出てきているし、何よりもTencentの城下町として起業家の人材プールもある。

もちろん、それ以外にも、伝統的にゲーム産業の強い成都や、Alibaba本社のある杭州など中国各地で競うようにベンチャー企業が生産される。政府もこうした動きを後押しして、補助金を出したり、政府系の建物をインキュベーションオフィスに改装してベンチャー企業に安く入居させたり、自由貿易区を作って規制緩和特区を作ったりしている。

今やどの都市に行っても中国ベンチャーの熱気であふれている。

大事かどうか

中国と仕事をする、海外業務を推進する場合に、頻繁に意思疎通の不具合が生じる。

そもそもの考え方の違いはもちろん、考えが同じであっても言語の表現の仕方で容易に衝突が起きる。業務やプロジェクトの進め方も異なり、事業パートナーであればさらに利害関係も異なる。新しい取り組みであれば、同じ会社の同じ部署の人間であっても、目的や思惑が異なるかもしれない。そうしたなかで、案件担当者としては丁寧に忍耐強く進めていくことが大切であるし、日本や中国の本社側もそういう状況を理解しなければならない。

いま面していることが大事かどうか、小さなことについては目をつぶって飲み込んで事を進めることができるか、そういう観点が重要。そして、そういう観点を持てる人を戦略立案担当者、企画推進者、責任者にし、きちんとその責任者に任せる体制にしなければならない。

段階的な中国進出

「中国は市場が分からないし、すぐに騙されると聞くし、怖い。」という。そこで、有効な方法が段階的な進出。

いきなり単独で会社を設立したり、何かに単独で投資をしたりするのではなく、パートナーを見つけて一緒にやる。その場合でも、ちゃんとビジネスパートナーとインセンティブが同じ方向に向くように設計しなければならない。

パートナーを見つける際も、いわゆるコンサルタントを雇って市場調査をするよりも、ローカルの同業者に投資したり同業エリアをターゲットにしたローカルのファンドに投資したりすることが有効なことがある。投資家としてその業界を効率的に見る、情報を収集することが可能になる。その投資先が将来の事業パートナーになるかもしれないし、そういう相手を紹介してくれるかもしれない。いずれにせよ出資金自体を最大のリスクとして、認識しておけばよく、うまくいけば投資に対するリターンも期待できる。パートナーを見つけた際も、製品・サービスを提供する側とそれを売る側という単純な関係にするのではなく、同じように製品・サービスに責任を持つ、売る場合にも同じようにそのリスクを分担するような仕組みづくりが大切。

ただ、これは日本であっても新たな領域へ進出すれば同じことだし、本当に中国特有で気にしなければいけないことは多くない。最初は有望そうなパートナーを見つける。見つける際にも効率的に。そして、パートナー関係を結ぶときにも単に売り買いの関係ではなく、極力同じ方向を向くように。相手のビジネスの成功が結果的に自社の成功にもなる、という関係が良い。

価値提供できるかどうか

市場規模とか市場の成長性とかももちろん大事ではあるのだが、やはり一番大事なのはきちんと価値提供できるかという点。

ターゲットとする顧客に対してきちんと価値提供できればビジネスとして生き残っていけるし、成長もできる。価値提供できているかどうかは、提供する側が決めるものではなく、受け取る側が決めるもの。きちんと顧客の声や反応を見て、価値提供ができているかを計測しなければならない。

時には、顧客が必要としているものを顧客自身が認識していないかもしれない。顧客が価値だと思っていることが、本当は大した価値が無いかもしれない。それでもきちんと価値を見極め、提供して、それに対して価値があることを認識してもらう。

価値提供をしたうえで、中国という高成長、大規模な市場であれば、さらにそのビジネスの成功確率は高まっていくし、ビジネスの成長スピードや規模も日本の比ではない。土台にあるのはやはり価値提供できるかどうか。

2線級都市はまだまだいける

中国での事業展開というと、北京、上海など1線級都市がすぐに思い浮かぶが、主戦場はその次の2線級都市と呼ばれるところ。

2線級と言っても数百万人規模の都市であるし、十分な規模はある。一方、1線級都市ほど飽和感は無く、まだまだ伸びている途中の市場でもある。中国の企業であってもまだまだ開拓中の市場。1線級都市に隣接している都市も少なく、高速鉄道で数時間や飛行機に乗っていくような場所もある。単独の市場としてやっていかなければならないローカルサービスも多い。

日本企業にとってファーストターゲットを2線級都市に定めるのは難しいし参入決断もしにくい場所ではあるが、2線級都市はまだまだチャンスがあるし、3線級都市でも数十万人規模の市場であるからなおさらチャンスがある。

解決策よりも課題

日本でも中国でも、新規事業を考えるときもベンチャー投資を考えるときも、解決策よりも課題が重要と言われる。

とある機能を使ってどのようにビジネス化していくのかを考えるのは難しい。どんなものにでも使えそうに見えるし、誰も要らないようにも思える。お金を払っても欲しいと思えるような機能を考えだすというのは難しい。それよりも、困りごと、課題を見つけ、それを解決することでビジネスにしていったほうが考えやすいし立ち上がりやすい。顧客にとっても、その問題が大きければ大きいほど対価を払うインセンティブがわいてくる。

その点、成熟した日本市場よりも、中国のほうが課題を見つけやすい。確かに、北京や上海などの大都市は課題があってもそれに対するソリューションを提供する人は多いが、それ以外の都市ではまだまだ社会・生活向上のための課題は山積している。それをうまく見極められれば十分大きなビジネスになる。海外事業展開のチャンスがある。

こんなこともあんなこともできる、と機能面やソリューションを強調するよりも、どういう問題を解決したいのか、より明確な課題意識を持ち、マーケットに問うことが重要。

した方が良いことはやらない

事業開発、特に中国での事業開発については、しなければいけないことに集中し、した方が良いことはやらない決断が必要。

市場の変化は大きいし、日本での想定が通じないことが多い。そうした状況下では、あらゆる想定をして計画通りに進めていくことは不可能に近い。それならば、しなければいけないことが出てきたときに、その事柄にいかに早く適切に対応するかを考えたほうが良い。

詳細な市場調査より、実際に売る。売ってみればどれくらいのニーズがどこにあるか分かる。完璧なプロダクトを作るより、まずテストでもなんでも市場に出してみて問題が出たら修正したほうが、マーケットニーズに合った商品を作ることができる。真似されない対策をあれこれ考えるより、真似されたらどうするかを考える。

もちろん、今、対峙している事象がしなければいけないことなのか、した方が良いことなのか、その判断については、経験や知見も必要になる。そうした知見を基に、的確にしなければいけないことに集中しなければならない。

情報収集としてのファンド投資

市場調査というと、いわゆるコンサルティング会社を雇ったりして、調査を行う。目線を少し変えて、ビジネスチャンスを探るためにファンドに投資するという方法はどうだろう。理にかなっているし、効率的でもある。

ファンドは投資してキャピタルゲインを得ることが目的なので、投資家の興味領域のみに投資をしてくれるわけではない。それでも、投資を通じた情報収集というのは効率的である。投資家には日々投資案件の相談がやって来るし、投資可能性の検討ということであれば会ってくれるベンチャーや企業も多い。

ファンドを選ぶときには、その運用能力の高さや、投資期間中の投資家対応の良し悪しをきちんと見なければならない。最低投資額の設定をしていたり、決まりきった定期報告しかしないファンドもある。一定期間資金を寝かせる余裕も必要になる。

そうした見極めをきちんとしたうえでファンド投資すれば、ビジネスデベロップメントの役に立つし、ファンド期間終了後にはフィナンシャルリターンも期待できる。

インセンティブ設計

中国ビジネス担当者と、その担当者が中国国内で実際に事業運営をしていくうえでのインセンティブは異なる。

中国ビジネスを構築しビジネスを大きくしていこうという大きな視点で見ている担当者にとっては、目の前の一つの契約を獲得するモチベーションは大きくないかもしれない。その契約獲得ができないのではなく、それをすることは中国ビジネス構築担当者の役割ではないから、それを自分がやってしまってはビジネスが広がらないことを知っているから。

それぞれの階層でのインセンティブ設計が重要であるのに、多くの日本企業できちんと設計されず、戦略構築もその執行もごちゃまぜにして担当者に割り振られている。

中国ビジネスなのか新規事業なのか

新規ビジネスの観点から中国ビジネスを評価、推進する。

中国ビジネスの難しさ、と思っていることが、実は日本でビジネスを行うことと同じ論点のことがある。

日本で行っていたことを中国でも展開する。一見、中国ビジネスの論点をつぶさないといけないように思うが、実は日本で新規事業展開するときに解決すべき課題と大差はない。

新規事業をやってきた人材であれば、中国経験が無くても中国ビジネスで成功する才能のいくつかは備えている。新規事業をやったことのない人は、新規事業の課題と中国特有の課題をごっちゃにして、全ての難しさを中国の責にしてしまう。