体制整備の難しさ

事業立ち上げ期の難しさの一つに、結果(新規顧客獲得や売上計上など)とプロセス(各種マニュアル化やチーム構築など)の両面を同時に追い求めなければならないことが挙げられる。

営業担当者や現場で新たな顧客と対峙している担当者からすると、目の前にあるビジネスチャンスを最大限獲得するために、雑多なことまでついつい自分でやってしまう。中長期的な目線を持つと、チームを作り、顧客への攻め方・ルールを決め、営業資料などを整備することが必要であることは分かる。だが、立ち上げ期では一人ですべてできてしまうために、他のメンバーや部下に任せることで短期的に営業成績の鈍化や顧客からのイメージが悪くなることを心配して、プロセス構築に時間・労力を割かない傾向にある。
一人でできる間であれば、また、一人でできるようなビジネスであれば問題ないのだが、そうでない場合にはある日突然ビジネスが止まってしまう可能性もある。1~30~50と顧客を順調に伸ばしてきたかと思うと、いきなりその成長が止まってしまうのである。

一方、経営側にも同じような悩みがある。「xx万円を使ってプロセス整備すればxx万円の売上・xx件の新規顧客が見込める」と分かれば誰でもその実行可否判断ができる。が、現実はそう単純ではないし、新規事業であればなおさらわからないことが多い。そういった状況の中でいかに適切に、事前に体制整備やプロセス整備の指示ができるか、そういう“将来への投資”の判断ができるか、がマネジメントにとっての重要な資質の一つになる。

ベンチャー企業など小さな組織であれば、上記の営業担当と経営側が近いもしくは同じことが多いので、コミュニケーションを密することで比較的判断しやすい。が、大きな企業における新規事業担当部署であると、この判断に非常に時間がかかるうえ、相互に相手の状況を理解しにくいので、プロジェクトの進捗スピードが鈍化したり、時には止まってしまう。
いわゆるプロジェクトマネジャーやプロジェクトリーダーと呼ばれる人の技量の見せ所であると同時に、難しさでもある。

意思決定者の取り込み

カスタマイズ企業が、顧客に楽しんでもらえる共同デザインの工程をうまく演出・提供すれば、その成果物に対する消費者の感銘や、払ってもいいと思う金額は、大量生産品に対するそれとは比べものにならない。
事業者がこの「自己満足」の概念で利益を得るには、顧客に委ねる作業が多すぎず少なすぎず適切な量であることが非常に重要だ
【「カスタマイズ 【特注】をビジネスにする新戦略」 アンソニー・フリン, エミリー・フリン・ヴェンキャット  CCCメディアハウス】

日本企業で中国ビジネスを推進する場合、結論から持っていくと、意思決定者は「ぽか~ん」としてしまう。

「忙しいマネジメント(意思決定者)だから結論から示したほうが良いかな」と気を使って結論から言うと、思考停止して「分からないから判断できない」となって、前に進めず、かといって後ろにも進めない。この時には、戦略立案の「工程」に入ってもらうしかない。

そのプロセスに入らせて「自分で作った戦略感」を演出する必要がある。このときも、深く関与させすぎると時間も労力も膨大になってしまうので、戦略が出来上がったころにはマーケット環境が変わってしまっていたり、膨大な検討費用がかかってしまう。関与させる「作業が多すぎず少なすぎず適切な量」を保つことがプロジェクトマネジャーの腕の見せ所になる。

うまく戦略立案のプロセスをコントロールして、意思決定者が「自己満足」の概念で決定するようにしなければならない。本物のマネジメントなら、「そこはプロジェクトマネジャーの業務分掌」として、きちんと権限と責任を設計してほしいのではあるが、日本の企業でそこまでできているところは極めて少ない(無い!?)。

新規事業の社内基盤

新規事業を始めるときは社内的基盤がしっかりしていなければならない。

新規事業は直ちに(経済的)成果を出すことは難しいので、すぐに「必要か?」という(社内政治的)議論に巻き込まれやすい。企業というビジネス主体でやっている限りは、売上や利益を上げる部門の力はやはり強く、そうでない部門はその存続も含め基盤が弱くなりがちである。「すぐには売上/利益を求めない」として始める新規事業も、初期の段階からその(経済的)基盤づくりを見据えた動き方をしなければ、進めていく過程で「梯子外し」に逢いかねない。
ベンチャー企業であれば、すぐに売り上げをあげなくても、その将来性を見込む投資家が資金を提供してくれるので経済的基盤の安定化を図れる方法が売上以外にもある。が、企業体のなかの新規事業部門は資金調達先が自社しかないので、交渉力が圧倒的に弱い。

新規事業部門に行く人も、その新規事業部門の社内的基盤をしっかり見極めなければならない。単に「新しいことができそうだ」で異動/参画すると、新規事業の醍醐味を味わう前に部署自体が無くなってしまいかねない。

CVCの使い方

一つの方法論であらゆる問題を解決することはできないが、それでもCVCというのは多くの問題を解決できる方法だろう。

Financial Returnを追求するのか、戦略的な意図(事業部門とのシナジーなど)を追求するのか、その両方をバランスさせるのか、CVCの目的を明確にする必要があることはもちろん大切である。
また、いわゆるR&D部門やM&A部門といった企業内の他の部門との連携も重要である。最新のビジネストレンドや情報収集を目的としてR&D部門に還元することや、良さそうだけれどもいきなり100%買収しない場合に少数株主として出資するなど、活用方法はさまざまである。その場合には、単なるCVC以上の役割が必要になるので、部門間の調整を図ることができる組織設計が必要である。

きちんと組織設計すれば、CVCというのは強力な武器になる。

【参考記事】Corporate venture capital can pay, but only if you get the structure right
【関連記事】CVCとVCの違い

ビジネスを成功させるのか、プロセスを守るのか

新規事業開発や、海外事業への取り組み方を見ていると、ビジネスとして成功させることを目的としているのか、プロセス(案件の進め方)を守ることを重視しているのか分かりにくい企業が意外に多い。自分たちのやり方や、社内的に説明しやすいプロセスを守ろうとするあまり、ビジネス環境に対応できずに、結果的に成功確率を下げていることになっている。

社内的に踏襲されているやり方でやると、共感は得やすいし、予算など社内的資源を得やすいかもしれない。しかし、ビジネス環境は常に変化するものであるし、自社のステップや検討プロセスの結果を待ってくれるわけではない。プロセスAが達成されたら/結果が出たら次を考えたい、ということは一見わかりやすいロジックではある。しかし、「Aの次」を考えつつAを進めていかなければ、準備など到底間に合わないし、せっかく波に乗ったAの勢いを殺しかねない。

自分たちにわかりやすいプロセスを優先してビジネスチャンスを逃していては本末転倒としか言えない。

本当にリスクをコントロールしつつ進めているのか?

中国ビジネスが分からない/経験の無いマネジメントにとっては、少しずつリスクを取りながら、一歩一歩確認しながら進めたい。そして、「行ける」と確信したら一気に資源を投入してプロジェクトを進めたい。

というのは理想ではあるが実際には難しい。そういうマネジメントは中国ビジネスには向かない。

実際に中国ビジネスに対峙している担当者にとっては、日々状況が変化し新たな打ち手を考えなければならない場面において、何かを選択したりしなかったり、自身の経験・知見を頼りに常にリスクを取りながら進めている。そうしないとすぐに振り切られてしまうマーケットだからだ。市場規模も大きいし、成長スピードも速く、ビジネスチャンスもたくさんあるが、小出しにしつつ進めて行って成功するほど容易なマーケットではない。

現場の担当者がどれほど「しびれる」状況で市場と対峙しているかを認識しなければ、マネジメントとは言えない。

戦闘は確かに様々な規模において行われるものだが、戦場で戦略を戦術レベルで「実行」しなければならない人間たちにとって、その「強度」というものは、常に最大限の激しさ(つまり命をかけた状態)で行われるものだからだ。【p.264 「現代の戦略」 コリン・グレイ 中央公論新社】

新規事業のKPI管理

やることが決まっていない新規事業のKPI管理は難しい。

5年後、10年後の事業を作るために新規事業開発の部署を立ち上げ、新たなビジネスの種を探そうとする企業は多い。漫然と探しても見つからないし、早期の売上実現や利益貢献を目指すと現状プラスα程度のビジネスアイデアしか出てこない。

新規事業発掘に似ている投資という仕事であれば、
①とにかくたくさん投資案件を見て検討して
②その中から良さそうなものをDDして
③投資条件交渉をして
④投資実行する
というステップごとに案件数をカウントすることで、定量的にも定性的にも事業進捗が見えやすい。

一方、やることが決まっていない新規事業をこのステップ論でやると、時として自己満足に終わる可能性がある。
やみくもにビジネスアイデアを考え、現事業とのシナジーの有り無しを考え、事業として「目」があるかどうかを判断する。実際やるとなった後も、すぐには「自立歩行」できない事業であるから様々なサポートが必要になる。

「ステージ/ステップを区切って検討していく」というのは概念的には理解できるが、実際にそれを進めていくのは難しい。

サービス輸出の方法

モノの輸出でも基本的には同じであるが、日本のサービスを中国に輸出する場合、次のような手順で進んでいく。
中国語化⇒ローカル化⇒テスト導入⇒販売⇒組織拡大

中国語化 : 今まで日本で使っていたものを中国語に翻訳するということ。専門用語や最新のネット用語などはうまく中国語に訳さないと、意味が通じにくくなる。

ローカル化 : とりあえず中国語化したものをベースに、ターゲットとなりそうな顧客の使い勝手を調査する。純粋なネットサービスならばPC一台(携帯1台)で出来るかもしれないし、何かの機器にインストールして使うようなものであれば顧客先に「設置」して使い勝手を聞く必要があるかもしれない。使い勝手を聞いて、プロダクトの過不足を把握し、中国市場にマッチしたサービスに改善していく。

テスト導入 : ある程度プロダクトが出来上がったら、実際に顧客に使ってもらって更に詳細なチューニングを行っていく。プロダクトの改善だけではなく、その導入にあたっての関連するサービスやプロセスの整備・改善なども含まれる。

販売 : テスト導入で安定的なサービス提供が確認されれば実際に販売して、契約書(申込書)や資金回収のプロセスをチェックする。

組織拡大 : 売れる目途が立てば、手作業や個別対応部分を減らし、組織として対応できるよう各プロセスをマニュアル化していく。その過程で人員も一気に拡大していく。

重要なことは、各ステップをとにかく高速で試行錯誤を繰り返し、ステップを進んでいくとともに必要であればステップを戻ることも検討する。
そして、テスト段階で極力多くの種類の顧客にあたることがサービスを完全なものに近づけていく事にも留意が必要である。ステップの進行を気にしすぎて特定のケースのみに特化したサービスを作ってしまうと、いざ販売拡大のフェーズで「意外に市場が小さかった」ということにもなりかねない。どの顧客セグメントが大きそうか、ということに目途をつけるという意味でも、テスト段階で多くの種類の顧客に当たり、「このタイプの顧客の数はどれくらいか?」ということを常に考えることが重要。

インセンティブ設計

新規事業開発、もしくは日本企業にとっての中国事業部門の担当者のインセンティブは注意深く設計しなければならない。

「その事業は将来性あるの?」「今更中国ビジネスって成功する?」という質問をそういう担当者に直接聞くのは愚問である。その担当者は、その事業を推進することを第一のミッションとして負っているので、「将来性はありません」と積極的に言うインセンティブが無いからだ。悪意を持って全く可能性を信じていないのに「将来性がある」とは言わないと思うが、自分の担当する領域で得た知見をベースになんとか事業として成立する方法を考え、「xxというやり方なら行ける!」と言うはずである。

実際の案件推進段階においても同じで、案件推進担当者は目の前の課題に取り組むことに集中しがちなのでバランスよく判断することが難しくなる。そういった時は、「数」を追うのか、「質」を追うのか、マネジメントとして二者択一である程度言い切る勇気も必要。

コピー天国でイノベーションが出てくる

知的財産を権利として守らない社会は困るが、良いもの、成功しているものを何でもコピーする市場は時には強さを発揮する。

中国のベンチャー企業は、自分自身のビジネスモデルや製品・プロダクトが真似される可能性のあることを前提に事業推進を行うから、そのスピード感はすさまじい。唯一ともいえる差別化がスピードになるからだ。他社よりも早く動いて一定規模の市場シェアを握る、それが参入障壁になるという考え方だ。ただ、一定規模の市場シェアと言っても、市場が巨大であるためにマーケットリーダーとなるほどのシェアを握ることも非常に困難である。Grouponモデルと言われる共同購入というビジネスモデルが流行った時、中国には一時1,000を超える類似サイトができた。その後、同業同士での買収や自然淘汰により美団Meituanというサイトが生き残った。

そういった市場の中で消費者は巧みに使いやすいサービスに簡単に移っていくために、今や単純なマネだけでは生き残れないのは誰しも知っているので、企業側も次から次へと便利なサービスを打ち出す。便利さだけで言えば、日本やアメリカよりも便利なサービスはたくさんある。WeChatはその最たるもの。

コピー前提だからイノベーションが生まれ、巨大なベンチャー企業が誕生し、結果的に社会として強くなっていく。