外貨投資では成功できない、訳では無い

ビジネスの成功に絶対的な法則がある訳では無い、ということは多くのビジネスマンに理解してもらえるのでは無いだろうか。

だが、こと中国ビジネスになるとその法則があるかのように行動してしまう企業は多い。こちらのポストでもその一例を紹介したが、そのほかにあるものとしてベンチャー投資における外貨規制に関する人民元投資もその類だ。

中国でベンチャー投資をするにあたって、人民元投資ができるほうがいいのは確かである。が、人民元投資ができないと中国でのベンチャー投資で成功しないか、というとそれは違う。外貨で直接投資できる案件もあるし、いわゆる外資ストラクチャーを組んでいれば外貨での投資も可能だ。シードステージでの投資はしにくくなるかもしれないが、ベンチャー投資はシード案件だけではないし、本当にいい案件ならアーリーステージやグロースステージでも投資のチャンスはある。人民元投資に固執するのではなく、外貨投資を前提にどのように案件ソーシングするか、投資交渉を行うかを検討したほうが良い。

市場に応じて戦略・戦術を変えていくというのはビジネスの基本であり、中国でのベンチャー投資についても同じである。

法律と実務と案件の中身と

中国のビジネス推進において留意すべきことの一つに、法律と実務と案件の中身が「異なる」ことがある、ということである。

インターネットビジネス従事者にはよく知られるICPライセンスであるが、法律上は外資は過半を超えなければ良いと読める。ただ、実務は少し異なり、外資が少しでも入っているとその企業のライセンス申請は認可されない。なので、ネットビジネスをやろう/中国のネットビジネスに投資しようとすると、いわゆるVIEストラクチャーを組む必要が出てくる。

ただ、弁護士に正面から相談しに行くと「法律上は外資も認められていますから、わざわざ特別なストラクチャーを組む必要はありませんよ」と言われる。ここが、中国ビジネス経験者といわゆる日本本社との食い違いポイントとなる。「実際にはできません」という担当者と「弁護士は良いと言っているじゃないか」という本社。実際にやってみればわかるのだが、そう簡単にライセンスは下りない。当局も法定されていない以上「外資はダメ」とは言わず、申請からほぼ無期限の「審査期間」に入る。

もう一つ留意すべきは、案件の中身の精査である。中国もグローバル化の流れに乗り、各方面で規制緩和されている。「某市の某特区で外資のビジネスも可能になった」「実際に1号案件も出ている」という話を聞くことがある。

これもよくよく1号案件の中身を聞くと米国市場に上場している中国企業の子会社であったりもする。米国に上場しているのであるから純粋な中国企業ではない。しかし、だからと言って、そういう子会社と(純粋)日本企業の取り扱いが同じようになるかどうかは分からない。上記の通り当局での取扱いが異なることは十分想定される。

前例が無い、もしくは少ない案件については、政府系のコンサルティング会社等を使って、詳細に事前にビジネス推進の可否を調査する必要がある。

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本社所在地の移転

中国で本社の登記場所を移転するのは難しい。

税制や各種外資規制の緩和を行うため、特区をつくっている地方政府が多い。主な理由は企業を誘致して雇用を創出したり、税収アップを目指すものだ。この優遇を受けるための条件は、会社(本社)をその特区に登記することというものが多い。このため、日本企業ならそこに進出拠点を登記したり、既に事業を行っている中国企業などは実際の事業の運営場所は今のままで登記場所だけ変更することも考える。

が、登記だけ特区内にして、実際の運営場所を異なる場所にするといった「いいとこどり」するのは難しい。

特区は新開発エリアや辺鄙な場所にあることも多く、事業運営するには従業員の採用が難しく、その他事業運営にも非効率が生じる。また、優遇政策を実施する地方政府の目的が経済の活性化であったり、税収の増加であるので、他地域からの「移転」は特に難しくなる。現在の登記場所の地方政府が移転を許さないからである。

「xx市で規制緩和して、外資も事業がしやすくなるらしい」という話はよく聞くが、後々の事業展開もよくよく考えて進出を検討したほうが良い。

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専門家の使い方

弁護士でも会計士でも、税理士でも、コンサルタントでも、専門家を使うのは難しい。

例えば、弁護士という資格を活かして他の人よりも各所への問い合わせがしやすいことは事実だが、だからといって何でもできるわけじゃないし良いアイデアが出てくるという訳でもない。自分自身の依頼したいこと、調査したいことを明確にして、きちんとその経験なりネットワークのある人に頼まなければ時間とお金の無駄になってしまう。

中国でも同じで、新しい領域でのビジネスのFeasibilityを確かめたいとき、取り組もうとしている投資スキームの法的妥当性を検証したいときに、漫然と大手コンサルティング会社や弁護士事務所に聞くだけではなく、きちんと担当者・担当弁護士まで指定して依頼できると調査結果の正確性も上がる。そうしたときに有用なのはやはりネットワークになるので、常日頃から外部専門家とのネットワークを維持し、誰が何の専門家であることを把握しておくことが必要である。

政策の実効性

中国は「上に政策あれば下に対策あり」を地でいく市場だ。

中国のビジネス環境が政府の政策に大きく左右されることは間違いないが、政策が公布施行されたからと言って、そのルールで市場が動くかどうかは分からない。政策が発表されることと、その実効性は分けて考えなければならない。守らなければならない政策やルールも、その実効性が伴わなければ、「もぐり」が跋扈し、「もぐり前提」での市場競争を強いられる。

明らかに「違法」なものは長続きしないが、「脱法」なものはその「脱法度合い」により存在が「許される」可能性がある。「なんで適法でないものが存在するのか!?」と目くじらを立ててもどうしようもない場合もある。

戸口とか社会保険とか

事業推進にあたって人材は重要な「資産」の一つである。中国ビジネスでもそれは変わりない。ただ、中国での人材採用は事業戦略にマッチするかどうかという観点のほかにも留意しなければならないことがある。

地域性である。

中国は、省が異なると、戸籍(戸口)や社会保険の制度も異なる。北京で働いていた人が上海に移って働いても単純には引き継げない。特に、地方から大都市に出てきて大都市の戸口を取ろうとしている人にとっては「どこで働くか」というのは文字通り死活問題になりうる。場所の意味でも、どこに本社のある会社かという意味でも。本社が上海にあるからと言って北京で働いていた人が簡単には転勤できるとは限らない。
また、設立間もないベンチャー企業など中小企業では「従業員が期待する」社会保険料額を納めていないこともある。

良い人材であり、当人も働く気があっても、採用に至らないことがある。

情報収集の重要性

中国では市場の変化が目覚ましく、そのルールの変化も目覚ましい。全ての項目について常に最新化するのは難しいが、情報のネットワークを張っておくことは大切。

法的整備が遅れていても、必要なもの、ニーズが多いものに対しては「対策」がいくつも出てくる。そしてそれがあたかも一般的なルールのように普遍的に使われる。VIEスキームもしくはWFOEストラクチャーと呼ばれる投資スキームもその一つである。一方、法的にOKであっても、実務上実行ができないものもある。規制業種への外資の直接投資である。法的には50%未満の投資であれば外資も参入可能であるのに、登記しようとすると受理されない。

また、新しいルールについても要注意である。ルールができたからと言って直ちにその規定通りのことが実現されるわけではなく、中国各地で事例が出てきてようやく安心して使えるルールになる。特に特区などでの新しい規定は、ルール自体が都市によっても異なるし、実務事例の蓄積もさまざまである。