出資を受ける意味

日本でも中国でも有望なベンチャーにはすぐに投資家がコンタクトする。日本人にとって、中国で誰も気づいていない良い案件に一番乗りすることは不可能に近い。そして、すぐに十分と言えるほどの資金が集まってしまう。

では、良い案件に投資するのは無理なのかというと、そんなことはない。

他の投資家に無い、特有の、出資を受ける意味を提示できれば、後からコンタクトしても出資するチャンスは十分にある。投資実行までのスピードであったり、金額の多寡であったり、事業上の価値提供であったり、思考を巡らせれば様々な「意味」を提示できるはず。

ベンチャー側も、出資を受ける意味を求めている。

WFOE化するとは

中国で外資規制がある業種に投資する場合には、WFOEストラクチャーないしはVIEストラクチャーと呼ばれる投資スキームを使って投資する。

実際には下図の通り、左の単純な株主①②と運営会社という状態から、右のようなスキームを構築して実質的な株主になる。SPVやWFOE、矢印で示される契約書等を作って、実質的に運営会社をコントロールするとともにその利益を還元できるようにする。

VIE structure

PreMoneyとPostMoney

中国に限らない、ベンチャー企業のValuationの計算式は次の通り。

Pre Money Valuation +調達額 =Post Money Valuation

1億円出資して10%の株主になろうとすると、Pre Money Valuaitonは9億円、Post Money Valuationは10億円ということになる。

この水準(9億円)が妥当かどうかというのは、そのベンチャー企業の状態や他社の事例を参考にするしかない。直近で似たようなベンチャー企業がどれくらいの段階でどれくらいのValuationで調達したか。しかも、未上場なのでその情報も噂や不確かな情報であることが多い。ベンチャー企業は利益を上げていない、キャッシュフローはマイナスであることが多いので、DCF的な考え方ではValuationを正当化しにくい。

最近の中国だと、Seed Stageで数千万円(数百万元)、Series A~Bで数億円(数千万元)調達するベンチャー企業が本当にたくさんある。Series C以降になると数十億円も。もちろん、それぞれの段階で次に行けるベンチャーもあれば、行けないベンチャーもある。

Term Sheet項目

欧米であっても、中国であっても、最近のベンチャー投資の型が定まりつつあるので、中国特有の項目は少ないが、下記のような項目をTerm Sheetで盛り込むことが必要。

・契約者名
・現在の株主構成
・投資金額とValuation
・資金使途
・投資実行条件(Condition Precedent)
・Redemption Right(回购权)
・【業績コミットとペナルティ】
・Dividend Right(分红权)
・【上場条件(Valuation)】
・Liquidation Preference(清算优先权)
・Right of First Refusal(优先认购权)
・譲渡制限
・Preemptive Right(优先购买权)
・Co-Sale Right(共售权)
・情報受領権 Information Right
・Anti-Dilution Right(反稀释条款)
・取締役指名権
・保護条項
・協業避止
・秘密保持
・取引費用
・法的拘束力
・実行意思確認
・裁判管轄・紛争解決

内資化

中国のベンチャー企業の流行の一つは「内資化」。

今までは中国国内の投資家層が成熟していなかったため、米国など海外の投資家から資金を調達せざるを得なかった。一方、ネットや金融サービスなど、外資の投資が規制されている業界も数多くある。これに対する一つの解が、WFOEストラクチャーやVIEストラクチャーと呼ばれるものであった。

しかし最近は、中国国内の投資家市場の厚みが増し、わざわざ海外から資金調達する必要が無くなってきた。特に、中国国内市場を対象としたサービスを提供するベンチャー企業にとっては、海外の投資家よりも中国国内投資家のほうがより正確に、より高く、そのビジネスを評価してくれる。そして、中国国内の株式市場の高揚。

こうしたことから、初めから中国国内投資家のみを受け入れるベンチャーも出始めている。そして、過去に1~2度海外投資家から資金調達したベンチャー企業も、WFOEストラクチャーを止めて純粋な中国内資企業になろうとしているところも多い。

ベンチャー起業家の事業計画

ベンチャー企業の事業計画は大部分が創業チームの「想い」。何年も同じ事業をやってきた大企業の事業計画とは違って全ての前提が大きく変わりうる。

そうした中で、創業チームから出された事業計画をどう読み解くか?

全てが変わりうる前提で、それでも創業チームとして何をKPIにしているのか、それがどう変わる可能性があって、変わった時の対応策が見えているか?

大きなビジョンを持って起業しているはずのベンチャー企業だが、単なるビジョン以上の細かい計画、ステップがあるか、二手先まで見てるのか三手先まで見ているのか。そうした起業家を見きわめるのが投資前のDDの一つ。

資金も時間も辛抱強く待てるか

ベンチャーに投資すると、資金的にも時間的にも、成功と呼べる段階まで辛抱強く待たなければならない。

シードやアーリー段階で投資をすると、当初は売上やキャッシュイン無く資金を使うばかりですぐに資金繰り問題に直面する。追加で資金を入れられるだけの予算を当初出資時から見込んでいるか、新たな投資家を呼び込むだけの力があるか、資金面でのサポートは重要。

Exitまでの時間は平均して数年かかるから、その間を待つこと、待てることもベンチャー投資家として重要な性質の一つ。

成長著しく、手っ取り早いリターンを狙う中国でも、数年・数億円の「余裕」があることが重要。ベンチャー投資するとはそういうこと。

ホームラン狙いの投資

いろんな業界にあるセンミツという言葉。ベンチャー投資でも同じ。

資金調達したいベンチャー企業は山ほどあり、「投資してるよ」というとどんどん案件がやって来る。そうした中でも「絶対に成功する」と信じられる案件に巡り合えるのは本当に少ないし、巡り合えても投資家同士の枠の取り合いも激しい。成長著しい中国では、起業家として成功しようという人は多く、投資家としてひと山当てようという人はさらに多い。

こうやって何とか投資できたとしても、本当に成功するのは10件に2~3件。成功した案件で失敗案件を賄おうとすると5~6倍のリターンが必要。5年で5倍の投資とはIRR40%。

それくらい大きなリターンが見込める案件のみに投資しなければベンチャー投資ビジネスとしては成り立たない。

初期段階の企業に投資するベンチャー・キャピタルは、大きな問題を見つけ、それを解決するという目標を掲げて、相当のリスクを取ることを誇りにしています。次なるビッグ・チャンスを求めて、つねにアンテナを張り巡らしています。小さな問題を徐々に解決していこうという姿勢とは百八十度違います。【「20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義(電子版)」 ティナ・シーリグ CCCメディアハウス】

資金調達条件の流行り

ベンチャー企業の資金調達条件にも流行がある。

主に投資家のニーズによって流行りが出てくるものと思うが、事業会社系の投資会社なら投資条件にプロダクトの作りこみ度合いや顧客数の増加を条件に投資を決める。早く上場させたいVCや証券会社系の投資会社なら上場基準を充たすために売上や利益目標を条件に投資を決める。

単に事業計画上の目標とすることもあれば、事前に決めた条件を達成しなければ調達株価を下げるなどの資金調達条件を直接変えることもある。

ベンチャー企業側も投資家側も流行を認識して柔軟に対応していかなければビジネスにも乗り遅れてしまう。

Valuationの重要性

個人や気心の知れた少人数でVCを運営しているのであれば合意がとりやすいが、CVCなど大企業のベンチャー投資チームが「まじめに」Valuationをし始めるとそれだけで一大仕事になってしまう。

投資する際のValuationは非常に重要である。

投資時の持分比率を決めることになるし、次のラウンドにも影響するし、持分比率を通じてExit時のリターンにも影響してくる。

が、詳細に検討すること、より正確に計算しようとして時間を費やすことが投資全体にとって良いことかどうかは別問題。