他社事例より自社事例

「中国で成功している外国企業はあるのか?」
「同業ではあるの?」
「日本の同業では?」

中国でのビジネス展開にあたり、市場調査が重要であるのは言うまでもない。その一環として他社事例を検証するのも重要。
ただ、あまりにも他社事例の研究に固執するあまり、時間と費用を浪費してビジネスチャンスを失っている企業も多いように思う。

同業が軒並み失敗しているなら、確かにその業界に何か問題があるのかもしれない。
とはいえ、日本企業がうまく行っていないだけであって、欧米の同業や中国ローカル企業は順調に成長している分野がほとんど。
そして、仮に他社がうまく行っているからと言って、詳細に研究してその通りやってみても自社がうまく行くわけではないし、えてして、詳細に研究したにもかかわらず成功事例通りやらずに、自社なりの“アレンジ”を加えて失敗してしまっているケースも多い。

失敗を恐れて事例研究に時間を費やすくらいなら、やってみて早めに失敗してみて、その失敗から学習し、修正していくほうが良い。
他社事例より自社事例を蓄積することで他社にはない強みがつくられる。

体制整備の難しさ

事業立ち上げ期の難しさの一つに、結果(新規顧客獲得や売上計上など)とプロセス(各種マニュアル化やチーム構築など)の両面を同時に追い求めなければならないことが挙げられる。

営業担当者や現場で新たな顧客と対峙している担当者からすると、目の前にあるビジネスチャンスを最大限獲得するために、雑多なことまでついつい自分でやってしまう。中長期的な目線を持つと、チームを作り、顧客への攻め方・ルールを決め、営業資料などを整備することが必要であることは分かる。だが、立ち上げ期では一人ですべてできてしまうために、他のメンバーや部下に任せることで短期的に営業成績の鈍化や顧客からのイメージが悪くなることを心配して、プロセス構築に時間・労力を割かない傾向にある。
一人でできる間であれば、また、一人でできるようなビジネスであれば問題ないのだが、そうでない場合にはある日突然ビジネスが止まってしまう可能性もある。1~30~50と顧客を順調に伸ばしてきたかと思うと、いきなりその成長が止まってしまうのである。

一方、経営側にも同じような悩みがある。「xx万円を使ってプロセス整備すればxx万円の売上・xx件の新規顧客が見込める」と分かれば誰でもその実行可否判断ができる。が、現実はそう単純ではないし、新規事業であればなおさらわからないことが多い。そういった状況の中でいかに適切に、事前に体制整備やプロセス整備の指示ができるか、そういう“将来への投資”の判断ができるか、がマネジメントにとっての重要な資質の一つになる。

ベンチャー企業など小さな組織であれば、上記の営業担当と経営側が近いもしくは同じことが多いので、コミュニケーションを密することで比較的判断しやすい。が、大きな企業における新規事業担当部署であると、この判断に非常に時間がかかるうえ、相互に相手の状況を理解しにくいので、プロジェクトの進捗スピードが鈍化したり、時には止まってしまう。
いわゆるプロジェクトマネジャーやプロジェクトリーダーと呼ばれる人の技量の見せ所であると同時に、難しさでもある。

本社所在地の移転

中国で本社の登記場所を移転するのは難しい。

税制や各種外資規制の緩和を行うため、特区をつくっている地方政府が多い。主な理由は企業を誘致して雇用を創出したり、税収アップを目指すものだ。この優遇を受けるための条件は、会社(本社)をその特区に登記することというものが多い。このため、日本企業ならそこに進出拠点を登記したり、既に事業を行っている中国企業などは実際の事業の運営場所は今のままで登記場所だけ変更することも考える。

が、登記だけ特区内にして、実際の運営場所を異なる場所にするといった「いいとこどり」するのは難しい。

特区は新開発エリアや辺鄙な場所にあることも多く、事業運営するには従業員の採用が難しく、その他事業運営にも非効率が生じる。また、優遇政策を実施する地方政府の目的が経済の活性化であったり、税収の増加であるので、他地域からの「移転」は特に難しくなる。現在の登記場所の地方政府が移転を許さないからである。

「xx市で規制緩和して、外資も事業がしやすくなるらしい」という話はよく聞くが、後々の事業展開もよくよく考えて進出を検討したほうが良い。

自己紹介・問い合わせ

ビジネスを成功させるのか、プロセスを守るのか

新規事業開発や、海外事業への取り組み方を見ていると、ビジネスとして成功させることを目的としているのか、プロセス(案件の進め方)を守ることを重視しているのか分かりにくい企業が意外に多い。自分たちのやり方や、社内的に説明しやすいプロセスを守ろうとするあまり、ビジネス環境に対応できずに、結果的に成功確率を下げていることになっている。

社内的に踏襲されているやり方でやると、共感は得やすいし、予算など社内的資源を得やすいかもしれない。しかし、ビジネス環境は常に変化するものであるし、自社のステップや検討プロセスの結果を待ってくれるわけではない。プロセスAが達成されたら/結果が出たら次を考えたい、ということは一見わかりやすいロジックではある。しかし、「Aの次」を考えつつAを進めていかなければ、準備など到底間に合わないし、せっかく波に乗ったAの勢いを殺しかねない。

自分たちにわかりやすいプロセスを優先してビジネスチャンスを逃していては本末転倒としか言えない。

インセンティブ設計

新規事業開発、もしくは日本企業にとっての中国事業部門の担当者のインセンティブは注意深く設計しなければならない。

「その事業は将来性あるの?」「今更中国ビジネスって成功する?」という質問をそういう担当者に直接聞くのは愚問である。その担当者は、その事業を推進することを第一のミッションとして負っているので、「将来性はありません」と積極的に言うインセンティブが無いからだ。悪意を持って全く可能性を信じていないのに「将来性がある」とは言わないと思うが、自分の担当する領域で得た知見をベースになんとか事業として成立する方法を考え、「xxというやり方なら行ける!」と言うはずである。

実際の案件推進段階においても同じで、案件推進担当者は目の前の課題に取り組むことに集中しがちなのでバランスよく判断することが難しくなる。そういった時は、「数」を追うのか、「質」を追うのか、マネジメントとして二者択一である程度言い切る勇気も必要。

価値提供できるかどうか

市場規模とか市場の成長性とかももちろん大事ではあるのだが、やはり一番大事なのはきちんと価値提供できるかという点。

ターゲットとする顧客に対してきちんと価値提供できればビジネスとして生き残っていけるし、成長もできる。価値提供できているかどうかは、提供する側が決めるものではなく、受け取る側が決めるもの。きちんと顧客の声や反応を見て、価値提供ができているかを計測しなければならない。

時には、顧客が必要としているものを顧客自身が認識していないかもしれない。顧客が価値だと思っていることが、本当は大した価値が無いかもしれない。それでもきちんと価値を見極め、提供して、それに対して価値があることを認識してもらう。

価値提供をしたうえで、中国という高成長、大規模な市場であれば、さらにそのビジネスの成功確率は高まっていくし、ビジネスの成長スピードや規模も日本の比ではない。土台にあるのはやはり価値提供できるかどうか。

デジタル、シンプルなインセンティブ設計

中国でビジネスを作っていくとき、極力デジタルなシンプルなインセンティブ設計にしたほうが良い。

日本本社からすると距離も離れるし、文化も違う、管理する側は時には中国ビジネスを知らないこともある。そうしたときに定性的な要素の多い評価方法や、無理に細かいインセンティブ設計にしてしまうと、実情に合わせた事業運営ができないばかりか、日本本社と中国現地ビジネス担当者との間での齟齬が大きくなってしまう。攻略すべきは中国市場なのに、その前の戦略立案や方針策定で疲弊してしまう。

わざわざ中国でビジネスをすることを決めたのだから、小さなビジネスではなく大きなビジネスを作ろうとしているはずである。その時には大きな方向性やターゲットとするマーケット像を定めればよく、細かいステップ論はその時々で対応・修正すればよい。

ビジネスのための起業

中国では、儲かるからやる、というタイプの起業が多い。

花が好きだから花屋を開く、接客や料理が好きだからカフェを開く、という自己実現タイプの起業は少ないように思う。市場が成長しているから、色々な分野でビジネスチャンスがあるのであろう。一方、長期雇用を保証している大企業が多いわけでもないので、給与所得に自分自身の生活を依存することが合理的ではない。給料アップを目指した転職が多いのもその表れであろう。20代や30代の企業勤めの若者でも、既に1~2社起業を経験していることも珍しくない。

自己実現よりも、ビジネスとしての生活としての起業家が多いので、きちんとキャッシュや利益が還元できる仕組みさえ作れれば、様々な場所にビジネスパートナーになりうる人がいる。

代理店か直販か

製品・サービスの販売においての仕組みづくりは注意深く設計しなければならない。

代理店モデルを採用した場合、代理店は仕入価格と小売価格の差額で儲けられるため、一見商売の自由度が広がるように思える。が、製品提供側からすると、代理店にとにかく大量に売り込むことが目的化しかねないため、大量の在庫が代理店に滞留し小売先に製品が届いていないリスクが生じる。

直販を選択した場合、届けたい消費者に確実に届くことを確保できる。一方、自社で営業部隊を持つか、ネットや電話などで通販するにしてもそれに相当する広告宣伝費が大きくのしかかってくる。

契約上は直販にして、小売先と直接製品・サービスの契約を締結する一方、代理店に小売先の紹介・仲介を委託するパターンも考えられる。この場合は、積極的に代理店が小売先を紹介したくなるような仕組みづくりが必要になる。紹介料や、小売価格のレベニューシェアと言った直接的な利益還元の他、紹介の手間がかからないような手離れの良い製品・サービスにすることが重要。

中国では、都市展開、地域展開すると、物理的に遠くてカバーしきれないことに加え、性質的にも全く違う商圏・文化になってしまうため、仕組みとして広がるような設計が重要。

インセンティブ設計

中国ビジネス担当者と、その担当者が中国国内で実際に事業運営をしていくうえでのインセンティブは異なる。

中国ビジネスを構築しビジネスを大きくしていこうという大きな視点で見ている担当者にとっては、目の前の一つの契約を獲得するモチベーションは大きくないかもしれない。その契約獲得ができないのではなく、それをすることは中国ビジネス構築担当者の役割ではないから、それを自分がやってしまってはビジネスが広がらないことを知っているから。

それぞれの階層でのインセンティブ設計が重要であるのに、多くの日本企業できちんと設計されず、戦略構築もその執行もごちゃまぜにして担当者に割り振られている。