本当にリスクをコントロールしつつ進めているのか?

中国ビジネスが分からない/経験の無いマネジメントにとっては、少しずつリスクを取りながら、一歩一歩確認しながら進めたい。そして、「行ける」と確信したら一気に資源を投入してプロジェクトを進めたい。

というのは理想ではあるが実際には難しい。そういうマネジメントは中国ビジネスには向かない。

実際に中国ビジネスに対峙している担当者にとっては、日々状況が変化し新たな打ち手を考えなければならない場面において、何かを選択したりしなかったり、自身の経験・知見を頼りに常にリスクを取りながら進めている。そうしないとすぐに振り切られてしまうマーケットだからだ。市場規模も大きいし、成長スピードも速く、ビジネスチャンスもたくさんあるが、小出しにしつつ進めて行って成功するほど容易なマーケットではない。

現場の担当者がどれほど「しびれる」状況で市場と対峙しているかを認識しなければ、マネジメントとは言えない。

戦闘は確かに様々な規模において行われるものだが、戦場で戦略を戦術レベルで「実行」しなければならない人間たちにとって、その「強度」というものは、常に最大限の激しさ(つまり命をかけた状態)で行われるものだからだ。【p.264 「現代の戦略」 コリン・グレイ 中央公論新社】

政策の実効性

中国は「上に政策あれば下に対策あり」を地でいく市場だ。

中国のビジネス環境が政府の政策に大きく左右されることは間違いないが、政策が公布施行されたからと言って、そのルールで市場が動くかどうかは分からない。政策が発表されることと、その実効性は分けて考えなければならない。守らなければならない政策やルールも、その実効性が伴わなければ、「もぐり」が跋扈し、「もぐり前提」での市場競争を強いられる。

明らかに「違法」なものは長続きしないが、「脱法」なものはその「脱法度合い」により存在が「許される」可能性がある。「なんで適法でないものが存在するのか!?」と目くじらを立ててもどうしようもない場合もある。

新規事業のKPI管理

やることが決まっていない新規事業のKPI管理は難しい。

5年後、10年後の事業を作るために新規事業開発の部署を立ち上げ、新たなビジネスの種を探そうとする企業は多い。漫然と探しても見つからないし、早期の売上実現や利益貢献を目指すと現状プラスα程度のビジネスアイデアしか出てこない。

新規事業発掘に似ている投資という仕事であれば、
①とにかくたくさん投資案件を見て検討して
②その中から良さそうなものをDDして
③投資条件交渉をして
④投資実行する
というステップごとに案件数をカウントすることで、定量的にも定性的にも事業進捗が見えやすい。

一方、やることが決まっていない新規事業をこのステップ論でやると、時として自己満足に終わる可能性がある。
やみくもにビジネスアイデアを考え、現事業とのシナジーの有り無しを考え、事業として「目」があるかどうかを判断する。実際やるとなった後も、すぐには「自立歩行」できない事業であるから様々なサポートが必要になる。

「ステージ/ステップを区切って検討していく」というのは概念的には理解できるが、実際にそれを進めていくのは難しい。

戸口とか社会保険とか

事業推進にあたって人材は重要な「資産」の一つである。中国ビジネスでもそれは変わりない。ただ、中国での人材採用は事業戦略にマッチするかどうかという観点のほかにも留意しなければならないことがある。

地域性である。

中国は、省が異なると、戸籍(戸口)や社会保険の制度も異なる。北京で働いていた人が上海に移って働いても単純には引き継げない。特に、地方から大都市に出てきて大都市の戸口を取ろうとしている人にとっては「どこで働くか」というのは文字通り死活問題になりうる。場所の意味でも、どこに本社のある会社かという意味でも。本社が上海にあるからと言って北京で働いていた人が簡単には転勤できるとは限らない。
また、設立間もないベンチャー企業など中小企業では「従業員が期待する」社会保険料額を納めていないこともある。

良い人材であり、当人も働く気があっても、採用に至らないことがある。

サービス輸出の方法

モノの輸出でも基本的には同じであるが、日本のサービスを中国に輸出する場合、次のような手順で進んでいく。
中国語化⇒ローカル化⇒テスト導入⇒販売⇒組織拡大

中国語化 : 今まで日本で使っていたものを中国語に翻訳するということ。専門用語や最新のネット用語などはうまく中国語に訳さないと、意味が通じにくくなる。

ローカル化 : とりあえず中国語化したものをベースに、ターゲットとなりそうな顧客の使い勝手を調査する。純粋なネットサービスならばPC一台(携帯1台)で出来るかもしれないし、何かの機器にインストールして使うようなものであれば顧客先に「設置」して使い勝手を聞く必要があるかもしれない。使い勝手を聞いて、プロダクトの過不足を把握し、中国市場にマッチしたサービスに改善していく。

テスト導入 : ある程度プロダクトが出来上がったら、実際に顧客に使ってもらって更に詳細なチューニングを行っていく。プロダクトの改善だけではなく、その導入にあたっての関連するサービスやプロセスの整備・改善なども含まれる。

販売 : テスト導入で安定的なサービス提供が確認されれば実際に販売して、契約書(申込書)や資金回収のプロセスをチェックする。

組織拡大 : 売れる目途が立てば、手作業や個別対応部分を減らし、組織として対応できるよう各プロセスをマニュアル化していく。その過程で人員も一気に拡大していく。

重要なことは、各ステップをとにかく高速で試行錯誤を繰り返し、ステップを進んでいくとともに必要であればステップを戻ることも検討する。
そして、テスト段階で極力多くの種類の顧客にあたることがサービスを完全なものに近づけていく事にも留意が必要である。ステップの進行を気にしすぎて特定のケースのみに特化したサービスを作ってしまうと、いざ販売拡大のフェーズで「意外に市場が小さかった」ということにもなりかねない。どの顧客セグメントが大きそうか、ということに目途をつけるという意味でも、テスト段階で多くの種類の顧客に当たり、「このタイプの顧客の数はどれくらいか?」ということを常に考えることが重要。

インセンティブ設計

新規事業開発、もしくは日本企業にとっての中国事業部門の担当者のインセンティブは注意深く設計しなければならない。

「その事業は将来性あるの?」「今更中国ビジネスって成功する?」という質問をそういう担当者に直接聞くのは愚問である。その担当者は、その事業を推進することを第一のミッションとして負っているので、「将来性はありません」と積極的に言うインセンティブが無いからだ。悪意を持って全く可能性を信じていないのに「将来性がある」とは言わないと思うが、自分の担当する領域で得た知見をベースになんとか事業として成立する方法を考え、「xxというやり方なら行ける!」と言うはずである。

実際の案件推進段階においても同じで、案件推進担当者は目の前の課題に取り組むことに集中しがちなのでバランスよく判断することが難しくなる。そういった時は、「数」を追うのか、「質」を追うのか、マネジメントとして二者択一である程度言い切る勇気も必要。