ファンドの立ち上げ~運営

投資ファンドの立ち上げから運営における重要な以下の各項目について必要な考慮点を簡単にまとめたいと思う。
①ファンドコンセプトの策定
②ファンド事業計画の策定
③投資対象の発掘・投資案件検討
④ファンド投資家との折衝・協働
⑤その他ファンド管理業務

①ファンドコンセプトの策定
ファンドコンセプトが一番重要となるのは、外部投資家から出資を受け入れる場合など対外的な説明時だろう。ファンド運営者からすると、儲けられると思える案件についてはどんな案件にでも投資したいし、出資を受ける側にしても、出資を受けられるのであればどういうコンセプトのファンドであってもお金はお金である。投資家としても、資産運用目的での出資あれば設けられればなんでも良い、となりがちではあるが、それでも自身のお金を預けるのにどういう使われ方・どういう領域に投資されるのかについてはある程度縛りたい。また、事業開発や市場調査目的で投資するようなファンドであれば、自身の興味領域に合った案件に投資してくれるファンドにしか投資しない。

②ファンド事業計画の策定
ファンドの事業計画、特に財務面は、事業会社のそれとは大きく異なる。投資時に資金が大きく流出し、投資先が大きくなるのを待つ間にはさほど資金流出はしない。そののち、Exit時にはキャピタルゲインなどと同時に投資金額が戻ってくるので資金流入が多くなる。こうした流れと合わせるように、通常のファンドであると、10年のファンド運用機関のうち、最初2~3年を出資期間に定め、投資活動を積極的に行い投資残高を積んでいく。途中4~8年目くらいは既存出資先の追加投資による資金流出や早期Exit案件に伴う資金流入があろう。そして最後の9~10年目には積極的にExitを試み、ファンドへの資金流入が生じる。実際には2年程度のファンド延長期間が設定されているので、全て投資回収するまでには10年以上かかることが多い。こうしたファンド運営の中で、新規投資案件の進み具合でいつ投資家から出資を受けるか(キャピタルコールするか)、Exit案件の進捗具合でいつ投資家に利益を分配するかを検討しなければならない。

③投資対象の発掘・投資案件検討
投資案件の発掘やその検討がファンドの最もキモであり、その良し悪しでファンドの運用成績が決まる。あらゆるところにネットワークを張って、良い案件が来るのをキャッチしなければならない。良い案件が来た時にも、すぐに協業他社にも知れ渡ってしまうので、慎重かつ積極的に案件を推進していかなくてはならない。設立間もないベンチャー企業では検討する為の情報が少ないこともある。そうしたときに迅速に判断して投資実行することが、同業他社を出し抜くために必要な事である。そのためにも、投資のための基本的な金融知識や契約知識を備えた案件担当者が重要になる。

④ファンド投資家との折衝・協働
ファンドコンセプトでも述べたように、様々なファンド投資家がいて、様々な目的で投資をしている。4半期ごとの説明や、年1回のファンドの運用成績の説明が重要であることはもちろんであるが、投資家の意向により市場環境の説明や、投資先とのミーティング・事業開発アレンジなどをしなければならない。

⑤その他ファンド管理業務
上記以外にもファンドを管理するための業務は多岐にわたり、ファンド運営管理会社はまさに会社であるため、会社としての労務、人事、経理、法務業務などがある。

ベンチャー投資で必要なこと

ベンチャー投資するうえで必要なことと言えば、金融と契約(法務)の知識、そして良い案件を見つけてこられるネットワーク。

DCFやMultipleといった一般的に理論的と言われるValuation方法が使いにくいのでベンチャーファイナンスは少し特殊な金融知識になる。契約書についても優先株などでの出資が一般的なので特殊な用語が多い。ただ、こうしたこと関連書籍を何冊か読み、2~3件投資してみれば基本型が分かるので知識獲得自体は難しくない。
やはり一番難しく、経験や勘が必要なのは良いネットワークを築くこと。ベンチャー企業の情報は未上場であるがゆえにただでさえ表に出にくいうえに、良い案件は誰しも囲い込んで極力外には出したがらない。何とか良い案件に投資して、実績として語れる案件をいくつ作れるか。良い案件に投資したことが評判になると、良い循環が生まれて新たな良い案件情報も入ってきやすくなる。こうしたことには「公式」は無いので、地道な活動も含めて粘り強く、でも効率的に行うことが必要。

コピー天国でイノベーションが出てくる

知的財産を権利として守らない社会は困るが、良いもの、成功しているものを何でもコピーする市場は時には強さを発揮する。

中国のベンチャー企業は、自分自身のビジネスモデルや製品・プロダクトが真似される可能性のあることを前提に事業推進を行うから、そのスピード感はすさまじい。唯一ともいえる差別化がスピードになるからだ。他社よりも早く動いて一定規模の市場シェアを握る、それが参入障壁になるという考え方だ。ただ、一定規模の市場シェアと言っても、市場が巨大であるためにマーケットリーダーとなるほどのシェアを握ることも非常に困難である。Grouponモデルと言われる共同購入というビジネスモデルが流行った時、中国には一時1,000を超える類似サイトができた。その後、同業同士での買収や自然淘汰により美団Meituanというサイトが生き残った。

そういった市場の中で消費者は巧みに使いやすいサービスに簡単に移っていくために、今や単純なマネだけでは生き残れないのは誰しも知っているので、企業側も次から次へと便利なサービスを打ち出す。便利さだけで言えば、日本やアメリカよりも便利なサービスはたくさんある。WeChatはその最たるもの。

コピー前提だからイノベーションが生まれ、巨大なベンチャー企業が誕生し、結果的に社会として強くなっていく。

情報収集の重要性

中国では市場の変化が目覚ましく、そのルールの変化も目覚ましい。全ての項目について常に最新化するのは難しいが、情報のネットワークを張っておくことは大切。

法的整備が遅れていても、必要なもの、ニーズが多いものに対しては「対策」がいくつも出てくる。そしてそれがあたかも一般的なルールのように普遍的に使われる。VIEスキームもしくはWFOEストラクチャーと呼ばれる投資スキームもその一つである。一方、法的にOKであっても、実務上実行ができないものもある。規制業種への外資の直接投資である。法的には50%未満の投資であれば外資も参入可能であるのに、登記しようとすると受理されない。

また、新しいルールについても要注意である。ルールができたからと言って直ちにその規定通りのことが実現されるわけではなく、中国各地で事例が出てきてようやく安心して使えるルールになる。特に特区などでの新しい規定は、ルール自体が都市によっても異なるし、実務事例の蓄積もさまざまである。

北京の強さ、上海の強さ、深センの強さ。

中国は都市ごとにその文化、歴史、経済の基盤が違い、一つの国の都市とは思えないことが多々ある。

ベンチャービジネスについても同じである。北京では、中国のシリコンバレーと言われる中関村に始まり、各地でベンチャー企業の集まりが開催されたり、インキュベーションセンターも各地にある。VCなど数多くの投資家もオフィスを構えており、ベンチャーを興す人、それをサポートする人の厚みが違う。上海も同様で、浦西の古い建築物をリノベーションしたおしゃれなインキュベーションセンターがあったり、各地でベンチャー企業の催しがある。深センは、香港への玄関口ないしは輸出加工工場として発展してきたためか、製造業を背景としたモノづくり系のベンチャー企業が多い。安くて高品質な製造工場と巧みに連携したIoT企業がたくさん出てきているし、何よりもTencentの城下町として起業家の人材プールもある。

もちろん、それ以外にも、伝統的にゲーム産業の強い成都や、Alibaba本社のある杭州など中国各地で競うようにベンチャー企業が生産される。政府もこうした動きを後押しして、補助金を出したり、政府系の建物をインキュベーションオフィスに改装してベンチャー企業に安く入居させたり、自由貿易区を作って規制緩和特区を作ったりしている。

今やどの都市に行っても中国ベンチャーの熱気であふれている。

大事かどうか

中国と仕事をする、海外業務を推進する場合に、頻繁に意思疎通の不具合が生じる。

そもそもの考え方の違いはもちろん、考えが同じであっても言語の表現の仕方で容易に衝突が起きる。業務やプロジェクトの進め方も異なり、事業パートナーであればさらに利害関係も異なる。新しい取り組みであれば、同じ会社の同じ部署の人間であっても、目的や思惑が異なるかもしれない。そうしたなかで、案件担当者としては丁寧に忍耐強く進めていくことが大切であるし、日本や中国の本社側もそういう状況を理解しなければならない。

いま面していることが大事かどうか、小さなことについては目をつぶって飲み込んで事を進めることができるか、そういう観点が重要。そして、そういう観点を持てる人を戦略立案担当者、企画推進者、責任者にし、きちんとその責任者に任せる体制にしなければならない。

段階的な中国進出

「中国は市場が分からないし、すぐに騙されると聞くし、怖い。」という。そこで、有効な方法が段階的な進出。

いきなり単独で会社を設立したり、何かに単独で投資をしたりするのではなく、パートナーを見つけて一緒にやる。その場合でも、ちゃんとビジネスパートナーとインセンティブが同じ方向に向くように設計しなければならない。

パートナーを見つける際も、いわゆるコンサルタントを雇って市場調査をするよりも、ローカルの同業者に投資したり同業エリアをターゲットにしたローカルのファンドに投資したりすることが有効なことがある。投資家としてその業界を効率的に見る、情報を収集することが可能になる。その投資先が将来の事業パートナーになるかもしれないし、そういう相手を紹介してくれるかもしれない。いずれにせよ出資金自体を最大のリスクとして、認識しておけばよく、うまくいけば投資に対するリターンも期待できる。パートナーを見つけた際も、製品・サービスを提供する側とそれを売る側という単純な関係にするのではなく、同じように製品・サービスに責任を持つ、売る場合にも同じようにそのリスクを分担するような仕組みづくりが大切。

ただ、これは日本であっても新たな領域へ進出すれば同じことだし、本当に中国特有で気にしなければいけないことは多くない。最初は有望そうなパートナーを見つける。見つける際にも効率的に。そして、パートナー関係を結ぶときにも単に売り買いの関係ではなく、極力同じ方向を向くように。相手のビジネスの成功が結果的に自社の成功にもなる、という関係が良い。

CVCとVCの違い

事業開発やマーケットリサーチ等を目的としたCVCと、投資リターンの最大化を目指すVCとでは投資先に対する対応が異なる。

例えば、投資先が増資する場合。CVCは投資に伴う協業関係がうまく進捗していれば、資本関係での緊密化を目的に、追加で持ち分を増やすことを考えるかもしれない。一方、VCはExitのチャンスととらえ、新たに入ってくる株主に対して持分譲渡を選択するかもしれない。
投資先の事業運営について、VCは成長するかどうか利益貢献するかどうかが重要でその運営の仕方についてあまり細かいことを言わない。一方CVCの場合、成長や利益への要求は小さくても事業運営の仕方自体に口出ししてくるかもしれない。

同じVCというカテゴリの中でも投資の目的が異なれば、同じ投資先に対する事象についても、対応が異なる。投資される側のから考えると、どういう投資家から出資を受け入れるかは複合的に考えないといけない。

従業員教育の難しさ

ベンチャー企業は人材の力によるところが大きい。ベンチャー企業でなくとも、サービス業などの目に見えないものを製品として提供している企業にとっても人材の差が企業の差になってくる。

国有企業に代わるカッコいい大手企業が出てきたため、中国でも特定の企業で働いていることがステータスになることが出てきた。

が、それでも、大部分のベンチャー、中小企業で働くビジネスマンにとっては、会社へのロイヤリティよりも、自分自身の力を発揮する場、キャリアアップの場として職場をとらえていることが多い。このため、自分自身の力を認めさせるために張り切りすぎる従業員も出てくる。日本的には、まず全体を把握して、会社内やチームでの役割を認識して、ということを期待しがちである。しかし、キャリアアップのために自分の力を示したい、示さないといけないと思っている従業員にとっては全体の和を乱しても自分の力を示す必要がある。長期的に見て貴重な経験ができている若者も、目に見える形でのキャリアアップが見込めない場合は、すぐに転職を考えてしまう。

従業員の目的と業務をうまく組み合わせて指示を出すことができるか、中国ではより重要な観点である。

中国企業も待っている

中国企業も日本企業との提携を待っている。日本のプロダクトを中国で展開したいと思っている。中国の製品を日本市場に広めたいと思っている。

ただ、そのやり方が分からない企業が多く、何となくチャンスはありそうだからやりたいという「提携以前」の企業も多い。具体的にプロダクトやビジネスプランを持っている企業は少なく、何かできそうというだけの企業が多い。こうしたところの課題やニーズを一つ一つ紐解いていけばチャンスは多い。

自分自身にどういう価値があって、相手方に何を求めるか、それを検討すれば、組める相手は増えてくる。組み方も販売提携から資本提携まで様々ある。

中国企業もビジネスでやっている訳だから儲けを重視することは確かではあるが、日本企業をだまして儲けてやろう、という観点で最初から物色している訳では無い。お互いに通常のビジネスベースに乗る話かどうか、率直に議論すればいい。